株式会社の代表取締役の氏名と住所は、登記簿に記録されます。登記事項証明書はだれでも請求できるので(「履歴事項全部証明書と印鑑証明書の取り方」)、一人社長の会社で本店と自宅が別の場所でも、社長の自宅の住所が人の目にふれることになります。

商業登記規則31条の3には、この住所を登記事項証明書に詳しく載せないための「代表取締役等住所非表示措置」が定められています。ここでは、条文に書かれている条件と手順を、一人社長の会社に当てはめて整理します。

登記事項証明書の書類のうち、住所の行の後半が隠されて、鍵のマークがついている様子を表した図

どんな措置か

この措置を講じると、代表取締役などの住所が記録される登記簿の 登記事項証明書と登記事項要約書 に、住所のうち 行政区画以外のものを記載しない 扱いになります(商業登記規則31条の3第1項)。

措置がないとき

代表取締役
○○県△△市□□町一丁目2番3号
山田太郎

住所が番地まで載る

措置を講じたとき

代表取締役
○○県△△市
山田太郎

行政区画より先は載らない

見え方のイメージです。住所の「行政区画以外のもの」を載せない措置で、氏名は載ります。

対象になるのは、株式会社の 代表取締役・代表執行役・代表清算人(条文では「代表取締役等」)です。規則の対象は株式会社なので、合同会社の代表社員は、この条文の対象に入っていません。

住所が消えるわけではない

この措置は、証明書と要約書に何を載せるかの扱いです。登記簿そのものには住所が記録されています。また、登記の申請書や添付書類(登記簿の附属書類)は、利害関係を有する者 が手数料を納めて閲覧を請求できます(商業登記法11条の2)。

よくある勘違い

いつでも、申出書を1枚出せば住所を隠せる?

条文では、次の節の 登記を申請するときに 申し出ることができる、と書かれています。登記の申請書に、措置を講じる代表取締役等の氏名と住所を書き、必要な書面を付けます。

申し出られるとき

商業登記規則31条の3第1項は、次の登記の申請をする者が申し出ることができる、と定めています。

会社を作るとき・移るとき

  • 株式会社の 設立の登記
  • 本店を ほかの登記所の管轄区域へ移した ときの、新しい所在地での登記

代表者が替わる・引っ越すとき

  • 代表取締役・代表執行役の 就任 または 住所変更 による変更の登記

会社をたたむとき

  • 清算人の登記
  • 代表清算人の就任または住所変更による変更の登記

一人社長の会社でよくあるのは、社長が引っ越して住所変更の登記をするとき、本店を管轄の外へ移すとき、重任などで代表取締役の就任の登記をするとき です。どの登記にも期限があります。代表取締役の住所変更は「役員が変わったときの登記の期限」、本店移転は「本店移転の手続きと期限」、重任は「役員の重任登記」を見てください。

申出も、登記の申請と同じように、オンライン(電子情報処理組織を使う方法)でできる手続に入っています(商業登記規則101条1項1号の2)。

申出に付ける書類

付ける書類は、上場しているか、すでに措置が講じられているかで変わります(商業登記規則31条の3第1項各号)。一人社長の会社は上場していないので、次の2つのどちらかです。

初めて措置を申し出るとき

  • イ 本店が実在することの書面:司法書士などの資格者代理人が、本店がその場所に実在することを確かめた結果を書いた書面。または、会社あての書面が本店の所在場所あてに 配達証明郵便 などで送られたことを証する書面
  • ロ 住所の証明書:代表取締役等の氏名・住所と同じ氏名・住所が書かれた、市町村長などが職務上作った証明書(申請書に付けていれば不要)
  • ハ 実質的支配者の書面:資格者代理人が犯罪収益移転防止法の確認をした会社の実質的支配者の本人特定事項を書いた書面、その他の実質的支配者の本人特定事項を証する書面

すでに措置が講じられているとき

  • 住所の証明書(申請書に付けていれば不要)

措置を講じている代表取締役等の住所と同じものを登記するときは、登記官が引き続き措置を講じる(同条3項)

住所の証明書には、本人が原本と相違ない旨を書いた写しも含みます。

実質的支配者リストを使う場合

ハの実質的支配者の書面は、会社について「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則」(令和3年法務省告示第187号)による実質的支配者情報一覧の写しの交付、または保管の申出がされていて、そのことを登記の申請書に書いた場合は、付けなくてよいとされています。ただし、登記の申請の日の属する年度か、その前の年度にした申出に限られます。

実質的支配者情報一覧(いわゆる実質的支配者リスト)のことは「実質的支配者リストとは」にまとめています。申出の手順や手数料は、本店の所在地を管轄する法務局の案内で確かめます。

自分で申請するときに気をつけたいこと

イとハの書面のうち、「資格者代理人」が確認した結果を書いた書面は、司法書士などに登記の申請を頼んだ場合のものです。自分で申請するときは、イは 配達証明郵便などで本店あてに送られたことを証する書面 を使うことになります。ハは、実質的支配者リストの写しの交付か申出をしていれば付けなくてよいので、先にリストの申出をしておく方法があります。それ以外にどんな書面がハにあたるかは、申請先の法務局に確かめます。

措置が終わるとき・続くとき

登記官は、次のときに措置を終わらせます(商業登記規則31条の3第4項)。

  • 会社の申出会社が「措置を希望しない」と申し出たとき申出書に代表取締役等の氏名と住所を書き、会社が届け出ている印鑑を押す(同条5項)
  • 本店が実在しない本店がその所在場所に実在すると認められないとき
  • 上場をやめた上場会社だった会社が上場会社でなくなったと認められるとき
  • 記録の復活閉鎖された登記記録に、復活すべき事由があると認められるとき

登記官は、措置を講じたり終わらせたりするときに、代表取締役等に出頭や質問、資料の提示を求めることがあります(同条6項)。

措置は本店が実在することを前提にしています。本店に郵便が届かない状態が続くと、措置が終わることがあります。バーチャルオフィスを本店にしている場合は、郵便の受け取り方を確かめておきます(「バーチャルオフィスで法人口座は作れる?」)。

被害を受けるおそれがあるときの別の仕組み

これとは別に、配偶者からの暴力やストーカー行為などの被害を受けるおそれがある人の住所を、証明書に載せない申出の仕組みもあります(商業登記規則31条の2)。こちらは、住所が明らかになることで被害を受けるおそれがあることを証する書面などを付けて申し出ます。

参考

この記事は一般的な情報です。会社ごとの判断は、税務署や税理士などの専門家に確認してください。